試乗備忘録(3)展示されていたのは外装赤/内装黒の407 Sport3.0(税込,以下同じ430万円)と外装銀/内装黒の407SW Sport2.2(420万円)の2台です。「SW」がワゴンを表すのは最近のプジョー車と同じです。グレード構成はセダン・ワゴンとも2.2リットル4気筒エンジン搭載車が2タイプ(360万円/400万円),3.0リットルV6搭載車が2タイプ(どちらも430万円)の計4種類です。なお,( )の中の価格はセダンのもので,ワゴンの価格は20万円増となります。セダンとワゴンの価格差は標準的ですが,特筆すべきは2.2と3.0がわずか30万円しか違わないことです。ベンツにせよBMWにせよ,ベーシックグレードの価格は低く抑えて値頃感を出しながら,上級モデルでしっかり「元を取る」値付けをするのがこのクラスの一般的なやり方ですが,407はハッキリと違いを打ち出してきたということでしょう。ベーシックグレード自体もC180Kや320iに比べると安くなっていますから,結果として上級モデルがずいぶんお得に感じられることになります。装備についても,たとえば最廉価モデル以外は本革シートが標準装備であることに象徴されるように,価格の割にはかなり充実したものといってよいでしょう。
Dセグメント輸入車はドイツ車の独壇場で,BMW3シリーズとベンツCクラス,それにつづくアウディA4の3車でかなりの部分が押さえられてしまっているのはよく知られているとおりです。プジョー自体は近年ずいぶん街でも見かけるようになりましたが,ほとんどは206と307で,400万円以上のモデルはほとんど見かけないように思います。407の前身である406も,端正なスタイルで根強いファンがついていたとはいえ,販売数はそれほどではなかったと思います。少し前に発表された607もやはり数は出ていないわけで,今回の407にかける期待はかなりのものであることが想像されます。
さて,それでは実車をみなければわからない部分について見ていくことにします。
407のデザインの特徴は,ボンネットからフロントウィンドにつながるなめらかなラインにあると作者は考えています。このデザイン処理自体はミニバンによくみられるものですが,これをDセグメントのセダンに取り入れたところが407の新しいところだと思います。まあ,Aピラーの角度がかなり寝ていることもあって,なんだか車全体が後ろに反り返っているようにも見えなくはありません。
プロポーションをC180Kと比べてみます。黄色の垂直線がドライバーの大まかな着座位置です。FRのC180はホイールベース間のやや後寄りであるのに対し,407では前寄りであるのがはっきりわかります。つまり,ドライバーの位置はFFらしく前輪に寄っているわけです。一方,フロントウィンドとボンネットの境目(緑線)をみてみると,C180では前輪とかなりの距離があるのに対し,407では前輪の直後からフロントウィンドが立ち上がっています。通常よりかなり前にフロントウィンドの下端を押しやることで,ボンネットからのラインをスムーズにつなげているわけですね。
この位置からフロントウィンドを立ち上げることができるのなら,Aピラーの角度をもっと立てて,運転席を前に出せばずっと室内スペースが稼げるはずです。いままでのFF車は基本的にそういう考えで作られてきたと思うのですが,407はずいぶんスタイルを優先していることが伺えます。
流麗なスタイリングの影響は室内にハッキリとあらわれています。フロントウィンドの付け根が前にあるので,ミラーはミニバンのようにかなり後ろにずらして取り付けられています(左,黄線)。また,ダッシュボード上面には広大な空間が広がります(左,青線)。衝突安全には有利かもしれませんが,スペース的にはずいぶん損をしていると思います。また,ウィンドウの傾きが大きいことで,実質的な上下寸法は小さくなりますから,前方視界にも圧迫感があります。ハンドルの前には広大な空間が広がるのに,頭上は妙に狭苦しいということになるわけですね。ウィンドの上の方にレインセンサー(左中,黄矢印)やアンテナ(赤矢印)が装着されているせいで,余計にゴチャゴチャした感じがします。さらに,ボンネット前端を運転席からみることはできません(青矢印)。こんなところもミニバンのようです。
後席についても,足下のスペース自体はまあまあですが,全長4.7メートル(ワゴンだと4.8メートル弱!)のDセグメント車と考えると今ひとつというところです。4.5メートル強のC180とほとんどかわりません。ルーフラインもボンネットに向かってスムーズに下がっている結果,頭上空間の余裕はほとんどありません。身長173cmの作者が座ると天井に髪の毛が当たります。なお,足下はセダンもワゴンも同じですが,頭上空間についてはワゴンの方が若干有利になります。
上にも書いたように,装備はかなり充実しているといえます。この価格でHDDナビや本革シート標準装備というのはかなり訴求力があるのではないでしょうか。また,空調(赤矢印)も左右独立調整です。ただ,ナビは市販品をそのまま組み込んでいるようで(左,黄矢印),空調パネルとのデザインの統一感はありません。スイッチの操作性もあまりよくありません。上についているのはマルチファンクションディスプレイ(青矢印)で,各種情報がカラー液晶で美しく表示されます。複数言語で表示できますが,残念ながら日本語表示はありません。この点をはじめ,ワイパーは自動なのにライトが手動だったり,携帯電話のハンズフリー機能が装備されていないなど,ちょっと中途半端に感じられる部分もあります。
セダンもワゴンも後席はダブルフォールディング式を採用しています。そのことは賞賛されるべきですが,残念なことにヘッドレストの処理が今ひとつです。座面を起こさないとほとんど背もたれは倒れないので(左),座面を起こしてみてもヘッドレストが邪魔をしてやっぱり背もたれは倒れません(左中)。ヘッドレストを抜くときれいに収まりますが(右中),こんどはヘッドレストの置き場所がありません。また,座面がソフトなのはフランス車の特徴と聞きますが,後席外側の支持は弱く,外側に体重をかけるとずり落ちそうになる感じがします(右)。ここはもう少ししっかりしてもいいと思っています。
ドアヒンジ(左)やウェザーストリップ(中,黄矢印)は標準的な造りです。スペアタイヤは標準サイズでアルミホイールです(右)。すっかりテンパータイヤ化がすすんだドイツ勢に比べるとずっと安心ですね。
エンジンルームをチェックしました。特筆かつ賞賛すべきは,対向式ワイパーが右ハンドル用に変更されていることです(黄矢印)。この手のワイパーに悩まされていた外車乗りには朗報でしょう。ただ,ブレーキ倍力装置は相変わらず左ハンドルと共通のレイアウトです(青矢印)。さらに,ボンネット支持はダンパーではありません(赤矢印)。ボンネット自体はアルミ製で軽く開け閉めができます。
各種チェックの後,SW Sport2.2に試乗してみました。市街地を一回りした印象では,ずいぶんゴツゴツと当たりの固い車だと感じました。車重は1.62トンあって,C180よりずっと重いはずなのですが,よくも悪くも重厚感は感じませんでした。おそらく,高速道路などではそれなりに安定しているのでしょうが,ドイツ勢が実現している全域での「フラット感」はあまりないように思います。プジョーの乗り味を「猫足」と表現しているのをよく見かけますが,どういう意味でそうなのかはよくわかりませんでした。
デザインが気に入っていると冒頭に書きましたが,実車をみると,デザインに惚れ込めないと買えない車ではないかと思うようになりました。一般論としてみても,比較的充実した装備やSWのガラスルーフの開放感などアピールポイントは数多くあるとはいえ,ドイツ勢の牙城を崩せるかというとちょっと疑問が残ります。日本語表示の出来ないマルチファンクションディスプレイにみられるように,日本向けのローカライズにかけられる手間とお金がドイツ勢にかなわないのでしょうね。また,ハンズフリー装置のような,「ベンツやビーエムには当然ついているお約束」の装備が欠けているのは大きなハンデかもしれません。車好きにアピールするポイントは少なくはありませんが,日本市場で地位を築くのは簡単ではないだろうというのが正直な感想です。